造影剤

朝一で手術室へ。
元々の原因は右側頭葉での出血だったため、右の鼠径部に局部麻酔をしカテーテルを挿入する。


「○○さん、造影剤を入れると、その部分が熱くなります。私の記憶では、以前、検査をした時は、○○さんは『熱い熱い』とおっしゃって、かなり動かれた。そうすると画像がブレて検査が長引くことになりますから、頑張ってください」


この先生の言葉で、検査のことをおぼろげに思い出す。そういや、「熱い熱い」と駄々をこねたっけ?
記憶を手繰っているうちに、まず、唇を"内側から"触られたような感覚を覚えた。
次に、「はい熱くなりますよー」という先生の声に遅れて、アタマの中にストローを使って熱い液体をぶちまけられたような感覚に襲われる。直後、その液体がぶちまけられた部分がズンと重くなったような感じがした。
右側頭部、右後頭部、左前頭部、首の後ろ、そして顔。
一回一回の重くなる感じが減衰して消えてなくなる前に、次の"重さ"がやってきて"その振れ幅が強くなっていく。
ついにどうしようもなく音を上げようとしたその時、「はい、終わりま〜す」という先生の声が響いた。
腫瘍は見当たらないとのことだった。


前日までの不眠のおかげ(?)で、一番憂鬱に思っていた4時間の止血は割と簡単に乗り切り、ベッドから解放されてまず真っ先にやったのは、Iさんへの報告だったのだが、Iさんは「ほう。良かったね」と素っ気なかった。
これまで何度となく考えた、「距離感」について、今日もまた考えた。