第1回星海社FICTIONS新人賞編集者座談会


太田 ちょっとこの辺で話しておきたいんだけど、実は僕、今回の選考ではほとんどぜんぶ紙で応募作品を読んだんですよ。Kindleで読んだ皆さんはどうだったんですか?


山中 Kindleバイアスは確実にあります。楽なんですね。


平林 僕は星海社唯一のSONY Reader使いですけど、やっぱりありますね。


柿内 Kindleで読んでから紙でもう一度読んだものがいくつかあるんですけど、Kindleで読んだときのほうが面白く感じたんですよね。ハードルが低くなるのかもしれない。


平林 文字組みのリーダビリティの問題じゃないかと思うんですよね。正直、プリントアウト原稿って読みにくい組みで印刷されたものが多いじゃないですか。それに比べると、今回山中君が作ってくれた電書端末用のPDFって組みがちゃんとしてる。


山中 (ドヤッ


太田 インクのかすれがあったり、可読性の低いフォントを使ったりしている応募者も多いからね。だから、さっきのカッキーみたいに、「Kindleで読んだほうが読める」って現象が起きる。ただ、そこにこそプリントアウトで送ってもらった理由があるんだよ。まず、我々プロの編集者は原稿に書き込みをしながら読み進めるわけじゃない? ただ文字を追っかけて読めばいいってわけじゃなくて、編集としての読み方ってものがあるわけじゃん。


柿内 もちろん、そこは紙のほうが断然上です。


太田 データの利便性はもちろんあるけどね。


平林 僕、プリントアウトのみだったら3600枚の『新最上記』を全部読み切れたかどうか疑問ですね。


太田 たしかに。ただ、ここは強調して言っておきたいんだけど、印字がちゃんとしている原稿は、中身もちゃんとしてるんですよ。


山中 性格が出る?


太田 いや、才能が出るんだよ! センスのいい人はセンスのある印字をしてくる。舞城さんの応募原稿なんて、ホント良かったよ。あの『煙か土か食い物』のフォントディレクションのイメージなんて、「応募原稿の再現」だったくらいだから。


平林 そんなに良かったんですか。


太田 舞城さんはビジュアルセンスもあるからね。応募原稿のMS明朝体の尖った感じが『煙か土か食い物』という小説にすごくマッチしてたっけ。と、まあ斯様に「編集者が投稿者の力を見る」ことと「編集者が己の力を発揮する」ことの両面において、プリントアウトは必須なんだよ。下読みを編集者以外が行うたいていの賞なら関係ないことかもしれないけどね。しかし、Kindle補正の話は、今までの編集者が直面したことのない問題だから、突っ込んで話しておきたいな。考えてみれば、電子書籍Readerでこれだけの応募原稿を読んだ編集部って、我々が世界初だと思うんだよ。